魔法使いの夜 感想
正直あ、出るんだ、あ、マジで出たんだ的な印象が強かったType-moonの新作ADV・魔法使いの夜。携帯ゲーや外伝に興味無い私からするとホロウから苦節7年。もう7年だよきのこ。嬉しくって楽しくって・・・悲しかったよ。
さて、内容ですが、今作は鬼哭街とかひぐらしなどのように選択肢のない、いわばビジュアルノベルというジャンルになります。シナリオを進めるに連れてサブストーリーを楽しめたりといった、寄り道的なテキストはあるものの基本的には一本道。物語にひたすら没頭したい私にとってはこれは良い点に値するのですが、やはり賛否両論。ルート分岐がないことは全体的なボリューム不足にもつながり、大体15時間程度のシナリオとなっています。(+番外編2~3時間)
ただし、そのシナリオを補助する役目であるグラフィック。通常想像するいわゆるギャルゲーエロゲーの紙芝居と比較すると、立ち絵の使い方やら背景やらBGMやらの演出面では他を圧倒するクオリティです。どう表現していいかわかりませんが、ageのAGESすら見劣りしてしまう程のレベルです。あそこまで演出に拘るならもう最初からアニメ作品として作った方がいいんじゃね?って意見もありそうですが、そうじゃない。あくまでもノベルゲームとしてのテンポを保ったまま、どう演出するかを突き詰めた感じ、とでもいいますか。
批判覚悟で断言しますけど、あの演出あってこその魔法使いの夜であり、演出拘らなくていいからボリューム増やしてくれ的な意見には賛同出来ません。多分原本である小説版・魔法使いの夜での遊園地のシーンと本作の同じシーンでは全く印象が異なると思います。文字だけでは表現出来ないものが確実にありました。
BGMはクラシックアレンジを始め穏やかな曲が多めでしたが、ここぞという時は盛り上がる曲もあり、音質も上々でType-moon作品では初めてサントラが欲しくなりましたね。FIVEとか最高ね。
総評:8点
以下ネタバレありの感想となりますのでご注意をば。
と、本格的に私的な感想を述べる前にとりあえず、先に世間一般で言われる悪い点だけ挙げときましょうか。
2年以上の延期。全年齢対象でボイス無し。選択肢無し。長い開発期間に見合わないボリューム。そしてこれは後で知ったんですが、3部作らしいこと。事前情報だけでもこれだけの不安材料を抱えていました。
そしてType-moonファンであるならばもちろんのこと、私程度のにわかファンでも「魔法使いの夜」がどういった内容の物語なのかはある程度想像がついています。空の境界、月姫、Fateよりもさらに昔の原作であり、それぞれのキャラクターたちの原型があること。青子がどうも学生時代、美少年に首輪をつけてペットにしてたらしいこと。史上最大の姉妹喧嘩があったらしいこと。この辺の情報から展開はある程度読めちゃうんですよね。
逆に言えば、Type-moon作品に初めて触れるのであれば不満点には成り得ないのですけど。
で、キャラの原型と言いましたが、まほよにおける青子は、鮮花や秋葉、そして凛へと受け継がれるヒロイン像まんまです。というかぶっちゃけ殆ど凛ですよねw 主人公というか、なんだ・・・ヒロイン?というんだろうか草十郎もまたコクトーやら士郎やらの原型とも言える要素を持ち合わせています。有珠は・・・まあこれといった元は無いのかも知れませんが、翡翠とカレンを足して2で割ったような?イメージでしょうか。なんか違う気もしますけどw
このようにキャラクターの個性という意味でも、別段特別なことはないんですよね。
さらに、当時はそんな言葉なかったとはいえ、月姫、Fateと言えば厨二病の代表ゲームとしてよく挙げられ、近年ではその患者が主なファン層になっていたはずです。まほよにはその点がいささか足りない。これは私的には不満点ではないのですが、Fateみたいなものを求めていた人には致命的でしょう。
と、こんな感じでネガティブに見れば、叩かれる要因が山ほどあります。これは長年待ち続けたType-moonファンならば至極当然の意見であり、擁護出来ない部分は確かにあります。
ただね、7年待っただとかの先入観を捨てて、これが新規メーカーの作った新しいADVゲームだったとしたらどうか。これって物凄い作品じゃないですかね?フルプライスゲーとして確かにボリューム不足感はあるもののそれを補って余りある内容。シナリオの展開に奇をてらったものがないため、退屈に感じる人もいるでしょうが、良く言えば卒なく纏まっているとも言えるわけで。
基本的な流れは王道のボーイ・ミーツ・ガールですよ。青春ジュブナイルモノですよ。好いた惚れたまでもいかないような、友情なんだかもよく分からない甘酸っぱい3人の関係を描いた作品です。魔術合戦になるといつものきのこ節が炸裂しますが、日常シーンでは小説寄りの随分と洗練されたテキストがそこにあります。
あと珍しくテーマ性が感じられましたね。オブラートに包んではいるものの、絶滅してしまったリョコウバト・マーサの話や草十郎視点で見る現代の世界。世界の神秘が次々と解明され、魔法と呼べる奇跡は数えるほどになってしまった現代の魔術師の黄昏。その辺りが対比されて上手くテーマにしていたと思います。
あーつまりこの作品って多分、Type-moonファン向けに作られていないんだな。作中で、ファンがニヤリとできるような描写もいくつかありましたが、それはそれ。本作の方向性はFateはもちろん月姫とも違うと思う。魅力的な世界観を解説したり、ヒロインと協力して敵を倒したりって要素もありますが、それが軸じゃない。本作においてそれらはあくまで舞台設定に過ぎないところが今までの作品との大きな違いな気がしますね。
強いて言うならそういう方向性の「魔法使いの夜」は原本小説が該当していたのかも知れません。真実はわかりませんけど、本作は限られた人間にしか見ることが叶わなかった原本を、現在の奈須きのこ氏が書き直したものであると思います。10年以上も経って、彼の思想や価値観、描きたいものも変わって、それを詰め込んだのが今作なんじゃなかろうか。
で、結局どうだったの?という話になると、これはもうすっげー面白かった!という感想になってしまいます。VS有珠in遊園地とか青の魔法解放シーンとかエンターテイメント性に優れた点もありますけど、それ以上に私はこの作品の雰囲気だとか情緒とか読了後の余韻がすごく琴線に触れました。魔術戦などの激しい描写もさることながら、一方で古の洋館でひっそりと穏やかに流れる時間がたまらなく心地良いのです。本編のエピローグとかもうなんか愛しすぎるよね。
草十郎の記憶を消すための忘却のルーンについて書かれた魔術書を見つけた青子は、草十郎が水族館に誘ったあの日、その分厚い本が有珠の手にあったことを思い出す。そして少しだけ見つけにくい棚の上にそっと戻す。いつか終わりを迎える日々を少しだけ先延ばしに。ああ、もう野暮ですけど、忘れたくないので文章に残しておきますw
主要人物の青子、草十郎、有珠も個性という意味では今時の作品の中では埋もれてしまうようなキャラクターかも知れませんが、嫌味がないんですよ。これといった会話が無くても居間で3人でお茶飲んでるシーンを想像するだけでほっこり出来るのですw なんだかんだいって青子も有珠も甘いですからね。どうしても非情に成りきれない人間性を抱えている。大事な宝石を赤の他人のために使っちゃったり、最後の最後で桜を抱きしめちゃう凛みたいに。非日常の世界に身を置く魔術師のくせに人間臭い人間の多いこと多いこと。だからこそ魅力的なんですがね。
というかそもそも草十郎に振り回されっぱなしの青子はふつーに可愛いし、稀に微笑を見せる有珠とかなんというかあざといぐらい可愛いし、別段文句はなかったんですけどね。
総評。文句はあるが名作。というか個人的に好きな作品といった感じですね。演出面では比肩するものがない。ボリュームは不足という意見が多数。私的にはちゃんとキャラクターが描かれてて、きちんと完結していれば、これぐらいのボリュームでも十分なんですけどね。Type-moonというブランドネームや発売に漕ぎ着けるまでの経緯などの先入観を捨てされば、十分に名作と言える作品です。
いやはや今の時代に逆向するような硬派なゲームでしたよ。一応ギャルゲー?に位置しながらも、ヒロインと同居しておきながらラッキースケベはおろかパンチラの一つすらないんですからw ベオへのハイキック時だってスパッツ常備よ?いや、本当に余程の自信か矜持でもない限り、こんな作品は作れないとおもいますよ、今日日。こういう作品を作れるのってエロゲメーカーでは本当に数えるほどしかいないと思います。
批判するのもわからいでかですが、少し冷静になって欲しい。本来何年待っただとか、前作と比べるとどうだ、というのは作品単体の評価点とはならないはず。世界観は共通であるものの、魔法使いの夜自体は単体できちんと完結しています。(少なくとも私はそう思っています。) シナリオの雰囲気が合わなかったり、展開が気に入らなかったりで評価を下げるのはもっともだと思いますが、Type-moonの作品としては、とかFateの続編としてはという理由で酷評を受けるのは、なんだかいたたまれないですね。いや、まあ待ちに待っていた人の気持ちも分かるのですが、いくらなんでも100点満点で10点がついちゃうようなゲームじゃないだろう、と。
なんか完全に擁護派になっちゃってますけど、これも多分私が本作を気に入っちゃったからなんだなあ多分w
ついでに言うと慌ててプレイせずゆっくりと世界に浸って欲しい。演出のトロさにテンポ悪く感じる人もいるでしょうが、あの速度でちょうどいいように設定されている、と思う。どうせボリューム少ないんだからたっぷり楽しもうぜという話ですw なんか微妙な薦め方ですけど。
しかし続編は書こうと思えばいくらでも書けそうだし、実際原本は3部作らしいのですが、ぶっちゃけ必要か?とも思います。主人公の青子の魔術は今作で第5魔法含めて出しきってしまったし(10年後の魔術すら)、有珠だって所有するプロイの大部分がネタバレしちゃいました。新たな魔術師との戦いを描くのもいいですけどそれって面白いかなあ。少なくとも今作以上に盛り上がる気がしないのだけれど。本作で蒼崎青子という人物の根源は書ききったし、月姫における志貴との出会いまでの空白は、各自想像で補完する程度でいいんじゃなかろうか。というか10年後の青子が顕現した時点で埋まったといってもいいんじゃね。
ファンディスク的なゆるっゆるな日常をダラダラ描く作品だったら正に俺得でウェルカムなんですが、本当に俺得でしかない気がしますし、世間的にw
あれだ、本編で皆無に等しかったイチャラブ要素を入れてくれてもいいのよ?・・・あーでも野暮かなあ。野暮だよなあ。なんというか本編で結ばれるまでいかなかった男女が続編でイチャイチャってのはなんか違う気がしますね。やっぱり後はご想像にお任せします、でいい気がする。いや、まあグリザイアの雄二と麻子みたいに健康的に爛れた性生活を送るというのもアリっちゃアリですがw
まあ、とにかく私的には大好きな作品の一つになったのでした。月姫プレイしたのがもう10年以上前。志貴の先生だった蒼崎青子の活躍を描いた「魔法使いの夜」なる作品が存在することを知ったのもその頃。その物語がついに発表されたってだけでも、本当に感慨深く涙モンだったはずなんですよ。ホロウからFate関係に付きっきりで全然新作が製作されることもないType-moonにやきもきしたり、DDDが続き出なかったりで複雑な感情抱きながらも、いざ発売となればそりゃあ嬉しかったものです。
で、やっぱりType-moonの作品は好きだった。きのこ氏のテキストが好きだった。あの世界観が好きだった。それを思い出させてくれました。
そんな訳で 俺 は 大 好 き だ ―!!
追記:本編終了後の番外編も終えました。内容は・・・なんというかファンディスク的な感じというか、ないよりはマシなのかも知れませんが、本編の余韻がちと台無しになってる気もしたりw 金鹿視点なのが救いでしたかね。本編後の青子と草十郎、有珠の関係ってなんとなく想像に留めておきたかったんですよ、正直なところ。だから金鹿視点では普通に見えても実は裏でラブラブだったりするのやもという妄想の余地が残されているのでギリギリOKといったところですw
内容はなんかかまいたちの夜を彷彿とさせるような選択肢と次々と起こる殺人事件。というかシュプールとかいってましたし完全にパロディでしたねw しかし真犯人はバレバレなのに途中の推理で外してると根拠が無くて追い込めないという、中々辛い仕掛けでした。そこそこ楽しめたので良いんですけどね。それにしてもリデルみたいな新キャラをあそこで出してくる必要があったのかしらん。
まあ橙子さんのまさかのへべれけと青子のまさかのバニー姿が見れたので私的には満足しましたけどね!
ディスカッション
コメント一覧
確かに50点以下がつく作品ではないと思います。自分は不満点が多すぎて70点ぐらいの評価です。青子と有珠の共闘理由も明らかにされず目的に届かない終劇。三部作らしいということを後で知ってorz
一本道で尺が短いなんて思いもせず・・・
硬派なゲームってのは何かわかりますねー。
青子もアリスもデレなすぎだし
お風呂上りドッキリは草の字だけかよと
女キャラに良く言えば可愛げ
悪く言えばあざとさが少ないのは
女性ファン層を狙ってるのかなと思いました。
最近はZeroで女性ファンが大量に流れ込んでますからそれを掴んでおきたいのでしょう。
うちは夫婦でゲーマーですが
嫁もGW入ってずっとやってます。
ここまで感想が被る方がいるとは思わなかった。
自分もかなり高評価ですね。
久々にエロがないほうが良いとおもったゲームだわ。
ラストの本を戻した後の日常を考えたらそれだけで楽しくなる。
アリスの『これ、私のだから』にかなり悶えた。
三部で宗十郎の記憶が消されるのか、アリスとくっつくのか(個人的願望)解らないけど続編が楽しみでもあり、出ないでここで終わって欲しい気もするわ。
とりあえず音声無かったのが個人的にはかなり良かった。あれが更に雰囲気を良くしてる
本編をプレイしてウキウキ気分でネットの評価を見てガクリorz
確かにボリューム少ない、ボイス無し、エロ無しですが、ネットで叩かれているほど悪い内容ではないと思います。
個人的には雰囲気やテンポは好みですし、草十郎、青子、有珠の関係には正直エロはいらないかな…
無理やりエロを付け加えて作品の雰囲気がダメになる可能性があるので今のままでよかったかなと…
多少ボリュームが少ないですが自分はとても好きな作品になりました♪
2部3部が楽しみです。
とりあえず早く出して…
僕は個人的に蒼崎姉妹が大好きでして、前から「魔法使いの夜」というか、蒼崎姉妹の関係がすごく気になってました。
そこで、今回「魔法使いの夜」はまさに僕にとって神ゲーでした。
2年も延期続きで大変?でしたが、いざプレイしてみれば2年の延長も納得な感じでした。
個人的にはまあ、当然の100点満点なんですがネットでは「音声がない」、「Hシーンがない」などの理由で評判はよくなかったことに衝撃を受けいろんな方の感想をみて回ってました。
主さんは比較的僕と似た感想でしてうれしいですw
最後に、
音声なぞ邪道!ましてHシーンなんて万死にあたいする!(笑)
俺以外酷評しか抱いてないのかと思ってたんでホッとしましたw
音声が無いって・・・三石さんにjkやらせる気かよ?って感じッスわw
俺の中では100点満点です。
もうすぐ発売から1年で今更な気がしますが、ここまで自分と意見が合う方々がいることを知り、うれしかったのでコメントさせてもらいます。
僕自身は魔法使いの夜を実際に買ってプレイしたのが2012の10月以降でした。
大学の日常の合間を縫ってプレイしてたので、内容量に関しては特に気にしていませんでした。
内容量より質ですね。今回の作品は絵も音楽も素晴らしくて、クリア後には完全にこの作品の虜になりました。特にEDが最高でした。曲の歌詞が作品にぴったりでした。
ただ、某掲示板関連のサイト?ではあまり評価が高くなかったことは確かに少し残念でした。
でも、あくまで個人的な意見ですが、そういった批判的な意見を書いている人はいわゆるH要素を期待した人、悪くいえば萌え豚みたいな人が大半だと思っています。
今のネット社会ではそういった人たちの意見が目立つので仕方のないことですが、そのせいでこの作品の一般的な評価が下がるのは悲しいですね。
まぁ、でも、世の中にはいろんな考えを持つ人がいるので、この作品を気に入るかどうかはその人次第ですよね。
なんか、だらだらと自分の意見を書かせてもらいスミマセンでした。この意見だけは誰かに言いたかったので(^_^)
まほよ2部3部も楽しみです。
コメントさせて頂きます
自分はzeroから入ったまだ何もしらない新参ですが型月の作品がとても好きになりました
そして初の型月作品はこの魔法使いの夜でした。
この作品は世間からの評価は悪いですが僕はとても良ゲーだと思っています。
魔法や根源など新参にはわからない部分もありましたがそれはそれでいいかと
なんといっても僕はプロイに興奮しました。fateが歴史キャラならこれは童話って感じで良かったです。
型月のゲームだと最初はエロゲってイメージがありますが
この作品はエロゲじゃなくて良かったです、親の目線を気にしながらやるのはきついのでww
それにこんなにものんびりやれるゲームも久々だったので楽しかったですw
やっぱり普通の日常を映してくれるというのは嬉しかったです。
ちょっと文才がないので意味不明なコメントになってしまったかと思います。
自分の感想を並べただけですのでご不満な点がありましたらすいません
もうまほよが発売されて一年が過ぎましたね…
二部、三部が楽しみです…毎度毎度とは聞いてますが発売延期がなければ嬉しいです
有珠さんマジ天使!
青子にパイズリして貰いたいです
型月は少人数体制な上他の仕事もあるので、
どうしても作業が滞ってしまうんですね
ノウハウはたっぷり積んだ筈なので今度は1部より短いスパンで出してほしい物です
えっ、評価?大好きだよ!!(逆切れ)